西オーストラリア州環境保全省視察報告
気候変動における影響が現れ始めている西オーストラリア州において、州政府の現状認識と対策について、環境保全省気候変動対策局長のスティーブオーラー氏から話を伺った。以下要点をまとめて報告する。
■気候変動における影響
西オーストラリア州は気候変動の影響を受けやすい地理的状況にあり、現在もその変化が感じられる状況である。例えば、州南西部の降雨量については1970年代と比較すると現在は20%減少という状況である。その結果ダムなどの貯水量は50%減となり、元々降雨量が多くはない大陸が益々乾燥してきているのである。研究者の予測によると30年後には降雨量が現在より20%減との報告もある。
また、州北部ではサイクロン巨大化に危機感を抱いている。これまで100年に1度程度の巨大なものが、近年は20年に1度と頻繁になってきており、この巨大なサイクロンが南下し大陸に近づいた場合、北部の資源輸出産業は多大な被害を受けることが想定される。直接的な被害だけでなく、港湾施設の補強などにかかる費用やタンカー停泊機関の延長などコスト増という間接被害にも繋がっていくのである。
さらに最も大きな影響が考えられるのが、気温上昇である。世界的に平均気温が2~3度上昇した場合、オーストラリアにはどのような影響が及ぶのか?
①観光名所であるグレートバリアリーフの珊瑚礁は97%が色あせてしまい観光客の減少に繋がる。
②ユーカリ植物地帯が40%減少し、生態系にも影響を及ぼす。
③湿地帯が80%減少し、砂漠化が進む。
④マラリア発生地域が南下し、発病者の増加が想定される。
⑤パースなどで気温50度以上となる可能性が高まり、高齢者や乳幼児の生命を脅かす。
⑥オーストラリア全土で道路整備費用が17%増となる。
⑦気温の影響を受けやすい農産物の品種改良や生産物転換などが必要となりコスト増となる。
⑧海面上昇により沿岸地域が水没する。
⑨森林火事のリスクが10%上昇。
⑩近海漁獲力は2070年までには30~70%減量する。
などが報告されている。
■西オーストラリア州政府の取組み
上記のような状況を州政府は深刻に捉え、様々な対策をとり始めた。まず対策本部長に環境問題で有名な大学教授を任命し、温室効果ガス削減策報告書が今年2月にまとめられた。その報告書を受けて州首相が政策を発表し、気候変動対策費を1億100万ドルと決定した。
削減目標は、西オーストラリア州で温室効果ガスを2050年度までに2000年度の60%まで減少(これは二酸化炭素排出量を2600万トン削減)することとした。また、低排出の新技術を民間で開発できるように4000万ドルの予算を確保した。
次に州政府の監督体制だが、気候変動担当大臣を配置し、その下でこの気候変動対策局を設置した。政策部門とプログラム部門という2つの部門に20名の職員を配置し、さらに経済や技術の専門家で構成される技術サポートチームも設置した。当局で気候変動対応プログラムを作成したが、北部気候については特に重視し、この調査研究に400万ドルの予算をつけた。
策定された効率利用計画の中では、再生可能なエネルギーを15%使用することとしており、新たな住宅建設をする場合、太陽光熱による温水システムや効率的なガスを使用しなければならず、屋根裏の断熱処理や省エネシャワー及び貯水タンクの設置などを推奨している。強制力のあるものとしては、例えば芝への自動水撒きを18時~9時の間で週2回までと定めたりもしている。その他の対策としては、水没リスクの高い沿岸地域への住居建設の規制やワイン産業従事者への生産物変更の推進なども行っている。
また、一般家庭への浸透のため、訓練を受けた職員が戸別訪問を行い資源の使い方や交通手段などについて指導したり、メディアを使って宣伝するなどの対策も行っている。
■おわりに
今回の視察は州政府という大きな公共団体であったため、危機意識も対策もかなりレベルの高いものであると感じた。しかし、一般市民はどの程度意識があるのか尋ねたところ、州都パース市民への調査結果では多くの市民が5大重要事項と認識するものの詳細は把握していないということで日本と大差ないようにも感じた。
西オーストラリア州政府として、一般市民への浸透は個別訪問が最も効果的と考えているとのことだが、今後は温室効果ガス削減の為に日本の地方公共団体でもこのような取組みを参考にしていく必要があると感じた。