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シンガポール教育省視察報告

人こそが最大の資源であると位置づけるシンガポールの教育政策について、教育省の方から話を伺った。以下要点をまとめて報告する。 ■教育システムの変化 シンガポールは建国後40年強という歴史の浅い国である為、国家存続の為にも教育を重視し、特にバイリンガル教育には当初より注力してきた。 1978年までの初期段階では、学校を増設し、平均学力を伸ばすことに注力した。その後1996年までの第2段階では、能力主義の特徴ともいえるストリーミング(学力選別)が導入された。小学校中学年で行う選別試験で子ども達を能力別のコースに振り分け、その後も試験成績によって進路が定められるようなシステムが確立された。この結果、有能な人物の早期発掘などに効果があったが、子どものストレスや成績下位者への処遇などの問題があった為、1997年より一人ひとりを重視する現在の教育システムへと移行した。 ■現在の教育システム 現在の教育システムは日本の6-3-3とは異なり、6-4(5)-2(3)となっている。( )は中学・高校の種類によってそのような場合もある為このように表記した。義務教育は初等教育6年間のみである。360の国立学校で535千人が学んでおり、シンガポール人であれば、小中高の学費はほとんど自己負担がない(月20ドル程度の実費程度)制度となっている。私立学校や他国のインターナショナルスクールもあるが、教育省として金銭的支援はしておらずこれらは独自に運営されている。 小学校は学校選択性をとっており、在住地から1キロ以内に優先権がある。教科は英語・母語(他民族国家の為、言語を選択できる)・算数といった基礎に重点をおいており、3年生からは理科も加わる。4年生までは皆同じ教育を受けるが、5・6年生は能力によってコースがわかれている。卒業試験を全員が受け、ほとんどがその成績によって進学先が決まる。 中学校においては、60%程度の生徒がスペシャルコースかエクスプレスコースで4年間学び、25%程度の生徒が学術ノーマルコースか技術ノーマルコースで5年間学ぶことになる。 中学卒業後は普通高校(ジュニアカレッジ)に約30%、技術高等専門学校(ポリテクニック)に約40%、技能教育校(ITE)に約20%、民間教育機関に5%程度と90%以上が進学している。その後は3つある国立大学に23%の生徒が進学しているが、インシアードやシカゴ経営大学院など国内にある海外私立大学のブランチ校に進学する生徒や英米日豪などの大学に留学する生徒も近年増加傾向にある。 ■多様な取組みについて 先述のとおり現在では一人ひとりを重視する教育計画となっているため、能力に応じた学校も設立された。成績上位者10%の為のIP(統合プログラム)校は、中学卒業試験を受けずに高校卒業試験受けられるよう中高一貫教育校のようになっている。同様に、スポーツ・芸術・科学などに秀でている子どもの為には中高一貫の特別独立校が設置された。 また、小学校卒業試験で不合格となってしまった子どもの為には技術的カリキュラムが豊富なノースライトスクールという機関が設置された。 小中学校の教科として人文科学系は時間的にさほど確保されていないものの、国家教育として、①自国の理解、②地域社会への参加による帰属意識の醸成、③歴史学習と地域活動という3段階になっており、中学から地理や歴史などを選択できるカリキュラムになっている。また、キャリア教育に関しては全中学校にキャリア開発担当教員を配置し、外部人材の講師派遣をするなどの取組みを行っている。 また、いじめや不登校といった問題に対しても調査やカウンセラー配置などで対応し、数値目標を持って解消に向け取組んでいる。さらに、教員に対する自己開発のサポートなどにも注力し、トータルで学校教育の向上に努めている。 ■おわりに 今回の視察は国家レベルの教育政策が中心であったが、優先権を持たせた小学校の選択性や、世界で活躍する人材育成の基盤となる小学校段階からの徹底したバイリンガル教育などは、「世界にはばたく子ども達」を教育目標としている世田谷としては、今後大いに検討していく必要があるものである。

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